■ ブラックジョーク

「東日本のやつらに言われたよ」

そう言って彼は鮭おにぎりをふたつ手にした。

「経済が停滞すると困るからいつも通りの日常を送りつつ募金をし、不謹慎だから祭やイベントは慎み、物流が滞るだろうが買い占めはせず、物資が足りないから送って欲しい。無茶言うな」
「まあ次の災害があったらそれを実践してくれるんだろうよ」

相槌を打ち、私は味噌汁とおにぎりを一つずつ選んだ。

「震災無関係な地方在住の底辺・非正規社員・手取り十万以下の人間にどんだけ求めんだっていう」
「はは。全くだ。毎日の生活さえギリギリなのにな」

店員が打ち出した金額を払う。

「今週一週間の晩飯が更に侘びしくなるわ」
「ついでに今月は趣味も一時停止だ」

パサリ。パサリ。
レジ横の箱に二人で笑いながら精一杯の札を放り込んだ。

■ 許容範囲

誰が何を思ってもいい。
ただそれを外に出さず、こちらに示しさえしなければ。

■ 仕方ない過去

売れ残っていた大量のチョコレイトを買い込んだ。
全部溶かして、でかいハアトを作ってかじる……余りの固さに歯が折れるかと焦った。

そんなしょうもないことをしたんだと、他愛ない話をしたい。
歯形のついたチョコレイトでも構わず食べてくれていたあの人と。

■ オオカミショウジョ

独りで育って独りで生きて独りで逝く。
それが出来る生き物を「人間」と呼ぶかどうか。
半世紀経てど明確な規定は出来ないと言うのに。

そう生きてきてそう生きて逝くと断言する「人間」が決して少なくないのは何故だろう。

■ 冬のせい

ひょうひょうと風が鳴る。
ひゅうひゅうと喉が鳴る。

どちらもポンコツで嫌われるくせに鳴り止まない。
そんなとこまで似なくていいのに。